大会
2019年度家族問題研究学会大会
日時:2019年7月20日(土)10:30~17:30
会 場:日本女子大学目白キャンパス香雪館(201教室)
(参加費:会員は無料、一般非会員は500円、学生非会員は100円)
スケジュール 10:00 ~ : 受付開始
10:30 ~ 12:30: 自由報告部会
12:30 ~ 14:00: 昼食・役員会・シンポジウム打ち合わせ
14:00 ~ 17:00: シンポジウム
17:00 ~ 17:30: 総会
共催 日本女子大学現代女性キャリア研究所
■自由報告部会(10:30 ~ 12:30)
司 会 :松木洋人(大阪市立大学)
報告者1 : 木村未和(お茶の水女子大学大学院)
報告題目 : 「1930年代刊行の『婦人戦旗』と『働く婦人』における「家族」言説」
要 旨 : 本研究は、『婦人戦線』(1931)と『働く婦人』(1932-1933)における「家族」言説について検討する。 『働く婦人』は、『婦人戦線』から改称し刊行されたものであり、両誌はプロレタリアの思想に基づいている。 これらの雑誌が刊行された時代というのは、すでに三・一五事件や四・一六事件など検挙が相次いでおり、 言論統制はいっそう厳しいものとなっていた。このような背景のなかで、どのような目的で『婦人戦線』と『働く婦人』は刊行され、 「家族」言説を形成していたのか検討する。また、他の雑誌との比較をつうじて、記事の特徴を捉えることを試みる。
報告者2 : ウヤンガ(中央大学大学院)
報告題目 : 「1950年代以降のモンゴル族の家庭と結婚形態の変容:内モンゴル農村地域での現地調査を通して」
要 旨 : 本研究では、1950年代以降のモンゴル農村地域での家庭と結婚形態の変容について検討する。 それによって、当時の社会背景や影響を把握し、それが現在の家庭と結婚の諸問題の要因とどう関連しているかを明確にする。 研究方法は、年齢層が異なる(20代~80代)対象者たちに半構造化インタビュー調査を行い、その人の生家、結婚当時の状況、 自分の子供に対する期待などについて調べる。それによって、時系列上では、一人の対象者の時代の変化につれての家庭と結婚形態への考えの変容を捉え、 さらに今日における、各年齢層の対象者の家庭と結婚形態の現状を比較する。
報告者3 : リシュ(中央大学大学院)
報告題目 : 「中国における中年世代の実態からみる世代間関係:河南省駐馬店市での調査を事例に」
要 旨 : 本研究は、中国における中年世代の実態からみる世代間関係を明らかにすることを目指すものである。 調査を通して、経済的に自立できず子どもに依存せざるを得ない老親世代を支えている一方、 自立困難で親の援助が必要となる子世代も支えなければならない、このようなジレンマ状態に陥っている中年世代の実態が明らかになった。 分析の結果、中年世代が相対的に安定しているゆえに、幾重にも親世代・子世代を支えざるを得ない。中年世代の社会的上昇ゆえに、 セーフティネットとしての役割を果たしてしまう。そのために、当事者たちがどのような家族戦略を取るのかを解明してきた。
報告者4 : 長船亜紀子(千葉大学大学院)
報告題目 : 「シングルの女性農業者における結婚選択:青森県の事例から」
要 旨 : 本研究の目的は、多様化・個人化が進む現代においてもイエ意識が残存していると言われる農村社会で、 女性農業者の結婚選択における主体性・選択性の所在を明らかにすることである。農業の後継者不足が深刻な現在、 女性の就農推進施策がとられているが子育て世代女性の農業離れは著しい。これまで課題となってきたのは、 結婚を機に就農した女性がいかにパートナーとしての地位を獲得するかである。 従来、調査・研究で焦点化されてこなかったシングルの20~40歳代女性農業者にインタビューを行い、 ジェンダーの視点から考察した。対象者が、他者が期待するイエ意識に基づいた結婚を拒み、主体的にライフコースを選び取る姿が明らかになった。
■シンポジウム(14:00 ~ 17:00)
テーマ : 「現代日本の未婚化と中期親子関係―20年後の『パラサイト・シングルの時代』」
趣 旨 : 1990年代以降、未婚化と中期親子関係の関連性については、注目される機会が増えるとともに、 さまざまな議論を巻き起こしてきた。中でも、山田昌弘氏が「学卒後も親と同居し、 基礎的生活条件を親に依存している未婚者」を「パラサイト・シングル」と名付け、未婚化の進展との関連を指摘したことは、 学術的関心にとどまらず大きな関心を集めたと言えるだろう。一方で、1990年代後半以降における経済不況の長期化によって、 非正規雇用者の増加など、経済的基盤の脆弱な若年層が拡大したことは、 未婚期間の長期化および定位家族における同居期間の長期化と併せて議論される機会が多い。 今年(2019年)は、山田氏の『パラサイト・シングルの時代』が刊行されて、ちょうど20年にあたる。 そこで本シンポジウムでは、現代的視点から、あらためてパラサイト・シングル論の評価・検証を試みることをひとつの手がかりとして、 親同居未婚者の中期親子関係をめぐる社会変動の実態と課題について検討をおこないたい。 具体的には、わが国で最も早い時期から「ポスト青年期」に着目し、若者と親との関係や若者の社会保障政策に関する議論を牽引してきた宮本みち子氏と、 中期親子関係の家族構造について、主にミクロデータを使用した計量的研究をおこなっている田中慶子氏にご報告いただく。 両者のご報告を通じて、親同居未婚者およびその周辺において、実際のところ、どのような変動が生じているのか(あるいはいないのか)、 また、変動の担い手となるのは、どのような社会階層の人たちなのか、議論を深めることができれば幸いである。
司 会 : 大日義晴(日本女子大学)・佐藤宏子(和洋女子大学)
討 論 者 : 四方理人(関西学院大学)・山田昌弘(中央大学)
報告者1 : 宮本みち子(放送大学・千葉大学)
報告題目 : 「失われた20年の中期親子関係の実態を社会階層から見る」
要 旨 : 「移行」の近代的パターンはもはや崩れ去った。失われた20年の社会経済構造の変化はジェンダー、 社会階層、地域においてライフコース上の「移行」の変化にともなう中期親子関係にも影響を及ぼした。 「ポスト青年期」の登場は新しいライフコースパターンの位相であるが、そのパターンに対応した新たな構造的課題が要請されている。 本報告で着目するのは、所得のような社会経済的地位が、有配偶率のような家族的地位との相関を強めていることである。 男性の30歳代世帯内単身者は、正規雇用の割合が57.8%、失業率は15.5%で、世帯主となっている同世代との違いが際立っている。 増加する低所得・不安定就労層の移行期の長期化は、「制約された選択肢(オプション)」を意味し「豊かな選択肢(オプション)」と対照的である。 低所得層においては未婚子の親同居は親子双方の貧困への抵抗である。しかし家族解体が進むと子どもは早期にリスクを伴う離家をする傾向がある。 これらの現象に関する研究をサーベイし、中期親子関係の変動を検討する。
報告者2 : 田中慶子(慶應義塾大学)
報告題目 : 「1990年代以降の中期親子関係研究―『パラサイト・シングル』論の成果と課題」
要 旨 : 本報告では、1990年代以降の日本の中期親子関係研究について、 とくに山田昌弘による「パラサイト・シングル」論に関連した成果を中心に概観し、今後の課題を提起する。 いわゆるパラサイト・シングル論は、団塊-団塊ジュニア世代という親子コーホートを対象とし、 長寿化や近代家族化の結果として現れた成人子親子関係のあり方と、未婚化・少子化という社会問題とを関連付けた議論であるが、 周知のとおり、広く社会において多くの議論を喚起した。さらに学術研究においても、20~30代という年齢層、 親元同居未婚子が主題化されたり、コーホートによる大人への移行パターンや格差のメカニズムに関する研究、家族形成の困難など、 多くの新たな研究成果を生むことにつながったと評価できる。これらの研究の知見を整理し、この間の到達点を確認するとともに、 パラサイト・シングル論が当初に提起した世代間関係や家族変動に関する仮説について考察をおこなうとともに、 20年を経た状況に関してデータを示しながら、中期親子関係研究の今後の課題について示したい。