大会

2016.07.30大会

2016年度家族問題研究学会大会

今年度も昨年度に引き続いて、学会大会を開催いたします。午前中は会員による 自由報告部会、午後は企画委員会がテーマを設定するシンポジウムという構成に なっています。多くの会員のみなさまのご参加をお待ちしております。 今回の大会は、日本女子大学現代女性キャリア研究所の共催となっております。


日時:7月30日(土)11:00~17:00

会場:日本女子大学目白キャンパス 新泉山館

      (参加費:会員は無料、一般非会員は500円、学生非会員は100円)


◆自由報告部会(11:00 ~ 12:30)

【第1部会】

司会:大日義晴(日本女子大学)

会場:第1・2会議室

第1報告者:髙橋香苗(明治大学大学院)

報告題目:女性雑誌にみられる就業意識に関する研究

要  旨:主婦の就業意識は経済的な格差と関連づけて議論されてきた。女性雑 誌を分析対象とした研究では、どのような仕事に就くかという志向性は雑誌に よって異なり、想定読者層の世帯収入が特に多い場合は趣味的仕事を、少ない場 合は家庭補助の日常的な仕事を志向すると指摘されてきた。しかしこれらの議論 は一般的なライフコースが前提であり、たとえば10 代で結婚や出産を経験する 「ギャルママ」は議論の外におかれてきた。そこで本研究では、まずギャルママ を想定読者にする雑誌『I LOVE mama』の記事を分析し、ギャルママの経済状況 と就業意識について明らかにする。そして、その結果をふまえて女性全体の就業 意識と経済状況の関連について検討を試みる。


第2報告者:佐藤宏子(和洋女子大学)

報告題目:中部日本の茶生産地域における世帯構成の変化と世代更新の様相

要  旨 :日本有数の茶生産地域である静岡県藤枝市岡部町朝比奈地域におけ る1982年~2014年の4時点パネルデータ(280世帯)を用いて、世帯構成の変 化、世代交替の様相を分析した。本地域の中心的な世帯構成は32年間にわたって 三世代世帯であるが、親世代の死亡、子世代の結婚と孫の誕生によって、「親・ 対象者夫婦・子」から「対象者夫婦・子夫婦・孫」へと移行している。また、息 子同居の原則が保持されており、32年間に世代更新を実現した世帯は4割強、新 たな直系家族を形成した世帯は4割弱であった。しかし、2014年時点では、子世 代の深刻な結婚難や子世代・孫世代の他出による直系家族の減少が、新たな直系 家族の形成を上回るスピードで生起している。


第3報告者:木戸功(札幌学院大学)

報告題目:ライフコースの構築と動機を語ること:移住者へのインタビューを通して

要  旨 :北海道の中山間地域Zにおいては、首都圏をはじめとした外部からの 移住者に対して、地域産品である木工品製作の技術を指導し生産者として育成す る研修制度が存在する。1984年の開始から現在にいたるまでに53名の研修生が受 け入れられ、そのうち41名がZ以外の地域からの移住者でありそこには24名は北 海道外からの移住者が含まれている。現在Zには20名の生産者が自らの工房を構 え生産に従事しているが、そのうちの13名はこの研修を経て独立した移住生産者 である。本報告では、経験的調査にもとづいて、この移住生産者のライフコース と家族形成のあり方について、構築主義の立場から検討する。


【第2部会】

司会:永井暁子(日本女子大学)

会場:第3会議室

第1報告者:和泉広恵(日本女子大学)

報告題目:米国ワシントン州における親族養育者の親族意識と「家族」

要  旨:近年、米国における社会的養護の領域では、里親養育から親族養育へ と政策の転換が図られている。先行研究では、親族養育が里親養育と比較され、 前者が後者よりも子どもによい影響を与えるとされる一方、前者は後者の家庭よ りも経済的問題や実親との距離の近さなど、複雑な課題を抱えることが明らかに されている、また、研修や手当の面で、前者は後者よりも支援が少ないことが指 摘されている。それでは、親族養育者は実際にはどのような家族意識を持ち、子 どもとの関係を築いているのだろうか。本報告では、ワシントン州の親族養育者 へのインタビュー調査のデータの分析を通して、親族養育からみる「家族」につ いて明らかにする。


第2報告者: 佐野俊幸(首都大学東京)

報告題目:英国ベビー・コットン事件にみる親性要件の社会的交渉過程の分析

要  旨:本報告は親性要件の社会的交渉過程の解明を目的とし、この目的のた めに英国生殖技術裁判最初期の事件のひとつ、ベビー・コットン事件についての 新聞言説と判決文を題材にする。分析は、新聞のフォーラム性に注目しつつ、こ れを社会的文脈に対応した論争過程とみなすことで、判決に至る親性要件の収れ んをみる。結果、当初は代理出産への素朴嫌悪論で始まった報道が、代理出産適 用モデルと母子愛着論バリエーションを遷移させながら、生物学的親性から意志 的親性への変更がなされる一方で、収束段階では特例論への強調がされつつ、一 貫してこれらが児童福祉原則に基づく心理的親性の装いを取り、これが判決文に 対応することが明らかとなった。


第3報告者:白井千晶(静岡大学)

報告題目:民間養子縁組支援機関が対応した「養育困難な妊娠」の現況について

要  旨:児童の虐待死で最も割合が高いのは、0歳、中でも出生当日の死亡で ある。妊娠期からの相談体制の拡充が求められる中、「産んだとしても、育てる ことができない妊娠」(養育困難な妊娠)の現状をまとめた調査はない。本報告 では民間の養子縁組支援機関が受けた相談を集計した結果と、そこからみえる養 育困難な妊娠の現状と課題を整理する。一般に高校生など就学者の妊娠が「予定 外の妊娠」「望まない妊娠」と考えられがちだが、集計結果からは、養育困難な 妊娠相談の7割はいわゆる社会人で、無職、非正規就労が過半であり、若者の経 済的苦境が背景にあることがわかった。家族やパートナーの不在も明らかになっ た。(三菱財団助成研究)



◆シンポジウム(14:00 ~ 16:30)

テーマ:「ベーシック・インカムは日本の家族を変えるか」

趣 旨:

 社会保険と公的扶助を中心とした従来の社会保障制度に替わり、全ての国民に 対して、無条件、一律、定額、必要最低限度の現金を事前に給付するベーシッ ク・インカム(基本所得)は、近年、政治的・学術的に一層多くの関心を集めて いる。たとえば、フィンランドやオランダでは実施に向けた都市レベルでの社会 実験の段階に入ったことが報じられている。また、スイスでは2016年にベーシッ ク・インカム類似の制度が国民投票にかけられ、最終的に否決されたものの、主 要先進国が実現の一歩手前まで踏み込んだことで大きな話題となった。日本で も、2010年ごろから政策やマニフェストの中にベーシック・インカムの文字が現 れるようになり、期待と不安の中で、左派から右派まで入り乱れての賛否両論が 続いている。

 しかし、雇用や社会保障への影響を超えて、ベーシック・インカムが従来の家 族領域、すなわち、親密な関係性やケア関係に与える影響について、日本の文脈 において十分に議論されてきたとは言いがたい。生活保障を雇用から切り離すと いうベーシック・インカムの企ては、単なる少子化対策であることを超えて、男 性稼ぎ手の雇用を通じて成立してきた日本の家族モデルを根底から覆すものであ ると考えられる。

 そこで、このシンポジウムでは、最も早い時期から日本にベーシック・インカ ムを紹介し、議論を牽引してきた小沢修司氏と、フェミニズムの立場からベー シック・インカムの批判的検討を続けてきた堅田香緒里氏を招き、ベーシック・ インカム一般の議論から一歩踏み込んで、ベーシック・インカムが日本の家族に 対してどのようなインパクトを持つのかを検討したい。

会  場 :第1・2会議室

司  会:松木洋人(大阪市立大学)・中西泰子(相模女子大学)

第1報告者:小沢修司(京都府立大学)

報告題目: 「雇用・家族の変化とベーシック・インカム」

要  旨:雇用と家族の現代的な変化の中で生じている日本の社会保障制度の限界と 問題点を指摘し、ベーシック・インカム論が提起されてきた背景と制度の概要に ついて解説する。そのうえで、試算を含めた財源の問題と、労働インセンティブ など実現可能性の問題、および、ベーシック・インカムの導入が日本社会と家庭 生活に与える影響を検討する。


第2報告者:堅田香緒里(法政大学)

報告題目:「ベーシック・インカムと女性の無償労働」

要  旨:ジェンダー化された現状の社会構造を前提としたとき、ベーシック・イン カムに対するフェミニストの評価は両義的なものである。本報告では、ベーシッ ク・インカムが女性の経済的自立を促し性分業を解消する可能性と、女性を家事 労働に縛り性分業を維持強化する可能性についての議論を振り返り、ベーシッ ク・インカムが家族に与える影響について検討したい。


討論者:久保田裕之(日本大学)