大会

2015.07.25大会

2015年度家族問題研究学会大会

日時:7月25日(土)11:00~17:00

会場:早稲田大学戸山キャンパス(文学部)36号館681教室・682教室

      (参加費:会員は無料、一般非会員は500円、学生非会員は100円)

スケジュール : 10:30 ~ : 受付開始

        11:00 ~ 12:30: 自由報告部会

   12:30 ~ 14:00: 昼食および役員会

   14:00 ~ 16:30: シンポジウム

   16:30 ~ 17:00: 総会


◆自由報告部会(11:00 ~ 12:30)

【第1部会】

司会:大日義晴(日本女子大学)

会場:36号館681教室

第1報告者:鈴木亜矢子(お茶の水女子大学大学院)

報告題目 :旧姓通称使用の多様化とその問題点――当事者の事例研究から

要  旨 :選択的夫婦別姓制度が導入されない中、結婚によって夫の姓に改姓 する女性が圧倒的多数を占める一方で、職場での旧姓通称使用が拡大している。 従来、旧姓通称使用は夫婦別姓実践の一形態であり、旧姓通称使用は、改姓した 女性がキャリアの分断やアイデンティティの喪失を避けるために行うものとされ てきた。だが近年の旧姓通称使用の拡大に伴い、職場の慣習に倣う形で旧姓通称 使用することで、意図せずして二つの姓を持つに至っているケースがある。本報 告では、職場で旧姓通称使用する女性20人への半構造化面接による聞き取り調査 を基に、近年の夫婦別姓の位相の一端を明らかにしたい。


第2報告者:島田良子(無所属)

報告題目 :「戦後70年」新憲法の下、民主的家族関係はどこまで進んだか――読 売新聞「人生案内100周年」を手掛かりとして

要  旨 :「戦後70年」の節目にあたる本年。家族はなぜ戦争に利用されたの か(家族国家観――大日本帝国憲法、旧民法、教育勅語)。このことを検証し、家 族が「平和の核」となるために、普遍的なテーマである「権力によって生命の尊 厳が犯されない社会」を建設することが重要である。それは、「民主的な家族関 係」の構築といえる(多くの尊い生命によって得られた「基本的人権の尊重」が 保障された新憲法、新民法、教育基本法)。戦後の新憲法の下、民主的家族関係 はどこまで進んだかを、読売新聞「人生案内100周年」を手掛かりとして考察する。


第3報告者:小島宏(早稲田大学)

報告題目:農家における家族構成と労働力雇用――2010年農林業センサス個票の分 析結果

要  旨 :本研究では2010年農林業センサス個票データを用いて都道府県別に 販売農家の世帯構成の労働力雇用に対する影響を分析した。農業労働力の雇用が 相対的に多い茨城県と熊本県を例として比較すると、前者の方が三世代世帯の割 合が高いが後者の方が核家族世帯、特に夫婦のみ世帯の割合が高い。ZIP(ゼロ 可変)モデルで販売額区分を変動効果とした場合、常雇いを雇用する可能性は茨 城県では三世代世帯で高いが熊本県では単独世帯と夫婦のみ世帯で高い。臨時雇 いを雇用する可能性はいずれにおいても三世代世帯で高く、単独世帯、片親と子 のみ世帯、二世代夫婦のみ世帯で低いが、茨城県では夫婦と子のみ世帯で高いの に対して熊本県では低い。


【第2部会】

司会:松木洋人(大阪市立大学)

会場:36号館682教室


第1報告者:堀聡子(東京福祉大学短期大学部)

報告題目 :子育てをめぐる「家族の境界」と母親アイデンティティ――子育て支 援NPOの家庭訪問事業を事例として

要  旨 :「子育ての社会化」が進行する際には、ケアを誰がどのように担う のかが問題となる。本報告では、学生ボランティアが子育て家庭を訪問しサポー トを行うアウトリーチ型の子育て支援を対象に、非家族成員が家庭内部で子育て をサポートすることにより、家族成員と非家族成員間に何が起こるかを、「家族 の境界」(家族という範域を規定する境界)に注目しながら考察する。そして、 ケアを非家族成員に明け渡すような場面において「家族の境界」は立ち現れるこ と、そこには「母親であること」をめぐるアイデンティティの問題が大きく関連 していることを明らかにする。


第2報告者:清水冬樹(旭川大学短期大学部)

報告題目 :ひとり親家庭の子どもの生活環境に関する研究――親子関係・学校・ 友人関係以外の関係性に着目して

要  旨 :本研究は、ひとり親家庭の子ども自身が必要とする支援のあり方を 検討する目的で実施している。先行研究では、親との別離(死別・離別)を経験 することによる親子関係の変容や、カウンセリングに焦点が当てられてきたが、 周囲との関係について言及するものは少ない。家族の大きな変動を誰に打ち明け ているのか、その打ち明ける場は子どもたちにどういったまなざしを持って接し てきたのかなど、子どもたちの視点から明らかにし、社会的な支援の方向性につ いて提起する。


第3報告者:竹家一美(お茶の水女子大学大学院)

報告題目 :非配偶者間人工授精で生まれた人の「告知」をめぐる問題経験

要  旨 :本研究では、提供精子による非配偶者間人工授精で生まれた人の手 記を分析し、出自を告知された彼らの問題経験を検討した。その結果、告知後に はショック、怒り、不信、アイデンティティの揺らぎなど多くの問題経験を抱え るものの、彼らは育ての父を「本当の父」、遺伝上の父を「ドナー」と位置づ け、両者の存在を認めていることが分かった。ドナーを知りたいのは、アイデン ティティ再構築と身の安全確保のため、自然な生殖への拘りゆえであった。育て の父を否定せず、他方でドナーを「人間」として確認したいと願う彼らの家族観 は、排他的な「近代家族」観とは異質であり、他の非血縁親子関係を考察する上 でも示唆に富むものと思われる。


◆シンポジウム(14:00 ~ 16:30)

テ ー マ : 「未婚化社会」の周辺を考える

趣  旨 : 周知のように、戦後日本社会においては「恋愛」や「結婚」をめ ぐり、見合い結婚と恋愛結婚の逆転、未婚化・晩婚化、離婚の増加と高どまりな ど大きな変化がみられる。近年は、とりわけ男性の雇用不安定化のなかで、非正 規雇用の男性の未婚率が増大し、「結婚したくてもできない」人の存在が指摘さ れる。  しかし「結婚したくでもできない」人は、皆婚社会といわれた時代であって も、一貫して一定数存在したことが容易に推測される。さらに、障害、病気、そ して出自や性的志向等により社会から「排除」され続けた人たちは、結婚願望を 持つか否かにかかわらず、常に「結婚」という制度から排除され「生涯未婚」者 としてカウントされただろう。  まがりなりにも「共生」がうたわれるようになった近年では、人権意識の高ま りや教育の効果により、マイノリティの人びとへの偏見も少なくなったのではな いか、そして、かれらをとりまく状況も変化し、就職、恋愛・結婚に関する「差 別」など存在しないのでは、といわれることも多い。  一方で、恋愛や結婚が個人的なものになればなるほど、それにかかわる「差 別」が見えづらくなることも、想像に難くない。たとえば「家」どうしの結婚を 前提とすれば、相手の出自への「差別」は可視化されるが、個人対個人の「恋 愛」であれば「嫌いになったから」「性格が合わないから」などと、「差別」を 介入させず、あくまで個人的なものとして関係を切断することが可能である。  本シンポジウムでは、現代社会における恋愛や結婚、および家族をめぐる変化 のもとでの、マイノリティの人びとの恋愛や結婚の変化について考えてみたい。 「未婚化社会」が論じられる際に、見落とされがちなその「周辺」について考え ることで、あらためて現代社会における、若者をめぐる不安定な就業形態や貧困 等の諸問題、また結婚や家族のあり方を考える契機になれば幸いである。  齋藤直子氏には「部落出身者」に焦点化し、日本社会の変化を背景としつつ、 部落出身者の差別が顕在化するといわれる「就職差別」や「結婚差別」の現状を ふまえ、複合的に考察していただく。また佐々木てる氏には、「在日コリアン」 の若者世代の恋愛観・結婚観についてご報告いただく。かつては大きな壁であっ た「民族的差異」は、現在は他の多くの差異の一つに解消されているかのように みえるが、実際はどうであるのか。ともに、聞き取り調査による結果を用いた報 告をいただく予定である。それぞれの場における若者世代の、リアルな「現実」 が描き出されることが期待される。


司  会 : 土屋葉(愛知大学)・佐藤宏子(和洋女子大学)

討 論 者 : 山田昌弘(中央大学)

報 告 者1: 齋藤直子(大阪市立大学)

報告題目 : 部落青年と恋愛・結婚:「未婚化社会」における「結婚差別」

要  旨 : 被差別部落出身者の恋愛や結婚について考えるとき、部落差別に 注目するあまり、日本社会全体における恋愛や結婚という背景が見逃されがちで ある。一方、日本社会の恋愛・結婚について考えるとき、部落出身者などのマイ ノリティが置かれている状況は、見過ごされがちなのではないだろうか。  だが、あたりまえのことなのだが、おおくの被差別部落出身の若者たち(以 下、部落青年とよぶ)の恋愛や結婚も、日本社会におけるそれらの一部をなして いる。そして、日本社会の状況が変化すれば、部落青年の恋愛や結婚もその影響 を受けて変化するだろう。  ところで、部落出身者に対する差別が顕現するのは、採用と結婚の機会である といわれており、それぞれに「就職差別」および「結婚差別」という名称がつけ られている。部落青年の恋愛・結婚を考えるためには、日本社会全体の状況とと もに、「就職差別」「結婚差別」の状況もふまえて、複合的にみていかなければ ならない。  報告では、部落青年にたいする聞き取り調査から、「未婚化社会」における部 落青年の恋愛および結婚の状況について考察していく。


報 告 者2: 佐々木てる(青森大学)

報告題目 : 「未婚化社会と在日若者世代」

要  旨 : 在日コリアンの2世、3世にとって恋愛そして結婚における「民族 的な違い」とは大きな壁であったことは報告されてきた。すなわち「朝鮮人との 結婚はゆるされない」「日本人ではなく同胞と結婚すべきだ」という言説はよく 聞かれるものであった。さらに日本では多くの在日コリアンが通名を使用してい たため、つきあいはじめて出自がわかったとたんに恋愛関係が破綻するという話 もあった。  これに対して近年では、通名であった人々も、民族名で生活するケースも増え てきた。そうなると名前だけではオールドカマーか、ニューカマーなのか、さら には出身国が中国か韓国か台湾かなどの区別もつかないことがあり、最初から 「違い」を前提としたつきあい、そして結婚に至るケースがある。グローバリ ゼーションが進展するなか、民族的な差異は他の多くの差異(年収、出身地域、 学歴、文化資本など)の一つに解消されている感もある。  では未婚社会の中で本当に(旧来的な)「民族的差異」は、今でも婚姻を疎外 する要因になっていないのか。そもそも在日コリアンの若者世代は、恋愛におい て民族的な違いに意味付けをするのか。そしてどのような時に民族という壁を感 じるのか。本報告は聞き取り調査の結果をもとに、昨今の在日若者世代の結婚、 恋愛観について報告することにする。