大会

2010.07.24大会

2010年度 公開シンポジウム「政権交代で家族は変わるか」

今年度のシンポジウムは、「政権交代で家族は変わるか」をテーマに開催します。昨年、政権交代がおこなわれ、戦後日本における社会システムに、大きな制度的変化が起こっています。現在の日本では、日本型雇用が解体され非正規雇用が促進されてきており、男性世帯主と専業主婦を基本とした近代家族の変容が余儀なくされています。セーフティネットとしての家族に注目が向けられる一方で、未婚率も上昇を続け、今まで「当たり前」と考えられてきた家族形成はもはや「特権」として語られるというような事態さえ起こっています。

 今回の政権交代は、戦後の自民党体制、また90年代に加速された新自由主義的政策と、どこがどのように違うのか、また同じなのか。家族に対する影響はどのようなものなのか。今年度のシンポジウムは、政権交代を機に政治の在り様と教育、労働、子育てに焦点を当てて、家族の変容を論じます。

 立教大学の藤田英典氏には教育の視点から、全国コミュニティ・ユニオン連合会会長の鴨桃代氏には労働の視点から、NPO法人びーのびーの代表奥山千鶴子氏には子育ての視点からお話しいただきます。討論者として、参加型市民社会、社会保障、野宿者/ホームレスなどをキーワードに研究をされている法政大学の仁平典宏氏からコメントをいただきます。


日時:2010年7月24日(土) 14:00 ~ 16:30

会場:早稲田大学文学部戸山キャンパス36号館681教室

   (参加費:会員は無料、一般非会員は500円、学生非会員は100円)

司会:千田有紀(武蔵大学)・永井暁子(日本女子大学)

討論者:仁平典宏(法政大学)


報告者1:藤田英典(立教大学)

報告題目:「教育政策の動向と家族役割の変容」

要旨:特に1980年代以降、改めて「ポストモダン的」と言えるラディカルな変化が社会生活のあらゆる側面で広範に進んできた。加えて、バブル経済崩壊以降の経済環境・企業経営環境の変化や財政赤字の増大への対応を重視して、新自由主義的な諸政策が進められてきた。この新自由主義的な政策動向は、政権交代により部分的に軌道修正されてきたようだが、教育政策に関する限り、例えば高校無償化や奨学金制度の拡充などが進められたものの、高校無償化を含めて、制度設計という点では、自公政権のときと変化しているようには見受けられない。その点を踏まえて報告では、家族のありようと子どもの教育機会・生活機会(ケア)の階層差について、①高校無償化が孕む問題性、②「血縁・地縁社会の家族と教育」→「社縁社会と経済文化資本格差」→「趣味縁社会とペアレントクラシー格差」、③趣味縁的・個人化・都市化社会の課題と団塊世代の役割、の3部構成で考えてみたい。


報告者2:鴨桃代(全国コミュニティ・ユニオン連合会会長)

報告題目:「安心して働ける社会に」

要旨:年収200万円に届かない低賃金と雇用不安定このうえない細切れの有期契約がセットで労働条件とされている非正規労働者が急増。特に若年層は男性も女性も50%近くが非正規雇用で明日の生活ができるのか、明日の仕事があるか、というような状況にさらされている。正規労働者も、長時間労働当たり前、異動・配転当たり前など「見かけ正社員」状態が横行している。正規も非正規も互いに「あんな働き方したくない」状態にあって、「家族」を意識・形成・維持しにくい。「政権交代」に家族の変化を求めるとするならば、生きることに関わる労働を社会の問題とし、ディセントワークの実現に向けワークルールの確立と社会的セーフティネットの強化が急務である。


報告者3:奥山千鶴子(NPO法人びーのびーの代表)

報告題目:「日本の子ども・家庭支援の夜明け前になるのか?」

要旨:明治時代に日本にきた西洋人は、日本は子どもを大切にする国という印象をもって帰ったようだ。しかし、今では、諸外国で子育てしてきた日本人が、子ども・家庭支援の制度の充実や子育て家庭へのまなざしの温かさに日本との違いを感じて帰国すると言われている。日本の社会は、「子どもは社会の宝」といいながら、子どもや子育て家庭を応援する政策が進まず、予算も十分ではない。背景には少子化でそもそも子育て家庭がマイノリティーな存在であり、政治的にも力を持ちにくいという理由があるのではないだろうか。 昨年の政権交代で「子ども手当」を中心に子ども政策に注目が集まった。また、内閣府では、本年1月に子ども・子育てビジョンが発表され、この4月27日には、「子ども・子育て新システムの方向性」として、日本の子ども・家庭支援政策を変えていこうとする案がだされた。今回こそは、抜本的な改革になるのか?傍観者ではなく、参画者としてこの新システム作りをウォッチし、提言を続けたいと考えている。なぜなら子どものいる暮らし、この根本的な営みが日本の活力につながると信じているからである。