大会
2022年度家族問題研究学会大会
日時 :2022年7月24日(日)10:00~17:30
開催形態:ZOOM によるオンライン形式
参加手順:会員の皆さまは、事前申し込みは不要です。後述するミーティング情報によりご参加下さい。
参加費 :無料
スケジュール:
9:50 ~: 参加者入室開始
10:00 ~ 12:30: 自由報告部会
(12:30 ~ 13:50: 役員会・シンポジウム打ち合わせ)
13:50 ~: 参加者入室開始
14:00 ~ 17:00: シンポジウム
17:00 ~ 17:30: 総会
プログラム:
■自由報告部会(10:00~12:30)
司会:岩田美香(法政大学)・阪井裕一郎(大妻女子大学)
第1報告者:リシュ(中央大学大学院)
報告題目:中国地方都市における老親扶養をめぐるきょうだい間のせめぎあい――きょうだいを持つ経済的に安定している中年女性の語りより
要旨:本研究では、中国地方都市に在住するきょうだいを持つ中年女性に注目し、老親扶養問題を中心に事例研究より明らかにした。その結果、⑴娘が全面的に老親を支えても老親からも評価されにくく、周囲からの評価も低くなる。⑵支援が必要な家族がいる際には老親扶養を全面的に担うことからは逃れることができるが、できる支援を求められてしまう。⑶部分的・一時的・補完的な老親扶養をしても、周囲からは「もっとできるだろう」と評価されてしまうことが明らかになった。親子間や夫婦間のコンフリクトは当然のことだが、きょうだい間による老親扶養をめぐるせめぎあいによって娘たちはしんどさを感じざるを得ないことが確認された。
第2報告者:七星純子(千葉大学大学院)
報告題目:家族変容の兆しを捉える――子ども食堂の担い手の食の家族規範への着目
要旨:本発表では、家族以外の子どもへの食事提供が特徴の一つである子ども食堂を家族論から捉えることを試みた。家族での共食が望ましいという規範を近代家族規範の一つと捉え、子ども食堂の担い手の食に関する家族規範に注目しインタビュー調査を実施した。その結果、担い手たちは家族での共食が望ましいという規範を重視しており、家族以外の子どもへの食事提供はその規範の維持を願ってのことだった。そのため、子ども食堂は食の脱家族化を目指す取り組みとは言えない。しかし、家族に期待されてきた子どもの食の場を家族外に創出することで私的領域の境界の弛緩を起こしており、家族変容の兆しと捉えることが出来るのではないかと結論づけた。
第3報告者:安發明子(立命館大学大学院)
報告題目:フランスの在宅教育支援のエスノグラフィー研究
要旨:フランスの子ども家庭分野の在宅支援における判断や実践がどのような「専門職の間で共有されている価値(valeur partagé)」に支えられているかを明らかにすることを目的として、パリ市の在宅支援専門機関で調査同意を得た45家族を対象に調査を行った。家族と専門職の面談や家庭訪問や、専門職会議への参与観察、専門職へのインタビュー調査を実施した。さらに支援機関作成の報告書等の資料調査とも照らし合わせ、多面的な視点を総合的に検討した。結果として、家庭内で親役割の実践を支えることで環境を整えようとしていることが観察された。家族について複数の専門職が多面的に評価し総合的なケアをおこなっている。
第4報告者:永田夏来(兵庫教育大学)
報告題目:妊娠先行型結婚の語りにみる世代差――NFRJ質的調査データを利用して
要旨:厚生労働省によれば、「結婚期間が妊娠期間より短い出生」が「嫡出第1子出生」に占める割合は2002年には27.9%と過去最高を示したが、2019年には18.4%にまで減少している。こうした社会変化の背景について考察する一助として、本報告では「妊娠をきっかけにした結婚に関する語り」の世代差に着目した分析をおこなう。具体的には、第4回全国家族調査(NFRJ18)と連動しておこなわれた「全国家族調査質的調査研究会」のデータを使用し、「妊娠先行型結婚」のタグが付された30~50歳代の女性9名のデータについて分析を実施する。
第5報告者:岡田玖美子(大阪大学大学院)
報告題目:夫婦の親密性をめぐるジェンダー構造と第三者による関係調整支援――夫婦カウンセリングに着目して
要旨:欧米ではセラピーなど専門家が夫婦関係に関わる実践について、既存のジェンダー不平等を隠蔽・再生産するおそれが指摘されてきた。本稿では、近年日本でも広まりつつある、民間による夫婦関係についてのカウンセリング実践に着目し、その市場拡大の様態と第三者としての専門的関与のありようについて、夫婦をめぐるジェンダー構造との関わりのなかで明らかにする。関連する民間資格の教材などの資料調査、およびカウンセラーへの聞き取り調査からは、夫婦の悩みの複雑性に対して従来の心理学的アプローチに限定しえない関与のありようがみえてきた。この点をふまえ、既存のジェンダー構造の転機となりうる専門家実践への課題と展望を論じる。
■シンポジウム(14:00 ~ 17:00)
テーマ:性的マイノリティと「家族」
趣 旨:近年、同性パートナーシップに対する社会的注目が集まっている一方で、性的マイノリティと「家族」をめぐる実態の調査は進んでいない。その背景の1つとして、性的マイノリティの現状把握に必要な統計データが日本社会に十分に存在しておらず、それゆえ、家族研究において蓄積されてきた性的マイノリティについての事例研究の知見について、統計的研究と往還しながら議論をすることが困難であったことが指摘できる。以上の背景を踏まえ本シンポジウムでは、統計的手法によって性的マイノリティの実態把握の研究をしている釜野さおり氏(国立社会保障・人口問題研究所)の研究グループと、人類学の立場から性的マイノリティの生活実態を検討してきた新ヶ江章友氏(大阪公立大学)をお招きし、性的マイノリティの「家族」について具体的なデータをもとに議論を深めていきたい。
司 会:藤間公太(国立社会保障・人口問題研究所)・三部倫子(奈良女子大学)
討論者:平山亮(大阪公立大学)
第1報告:性的指向と性自認のあり方(SOGI)と家族研究:量的調査を通じた試み
(1)その他(具体的に__):量的調査におけるSOGIの測定法に関する方法論的研究 平森大規(法政大学)
(2)量的調査で同性カップルを特定する試み: 無作為抽出調査を例として 釜野さおり(国立社会保障・人口問題研究所)
(3)SOGIと家族環境との関連:無作為抽出調査による分析の一例として 小山泰代(国立社会保障・人口問題研究所)
要 旨: 現在、SOGI人口学科研(※)では、誰もが対象となる可能性のある無作為抽出調査において、個人の性的指向、性自認のあり方、カップルタイプ(女性間、男性間、男女間)をいかに把握するのかの研究を進めている。本報告では、まず日本の調査票調査において性的指向や性自認のあり方を測定する際の課題と測定方法を検討した研究を紹介する(平森)。次に、2019年に実施した「大阪市民の働き方と暮らしの多様性と共生にかんするアンケート」(大阪市民調査)においてたずねた同性パートナーの有無や同居経験の有無、回答者のSOGI等の回答間の整合性を示し、同性カップルの把握における課題を検討する(釜野さおり)。最後に、大阪市民調査の回答者のSOGIおよびカップルタイプ別に、家族関係やジェンダー・家族意識等についての分析結果を提示する(小山泰代)。これらの試みを踏まえ、SOGIを軸にした家族研究の課題を検討する。
(※JSPS科研費21H04407;16H03709)
第2報告:性的マイノリティによる出産・子育ての実態把握に関するアンケート調査から分かること 新ヶ江章友(大阪公立大学)
要 旨:本発表では、2021年4月から5月にかけてインターネット上で実施した性的マイノリティで出産・子育てをしている人、あるいはこれからしようと考えている534人を対象としたアンケート調査の結果を報告する。子育ての状況としては、パートナーと一緒に育てているものが7割であり、パートナーや精子・卵子提供者/協力者などを含めた数人で育てているものも1割いた。すでに出産・子育てをしている(妊娠中も含む)141名のうち、55%(77人)が第三者からの精子や卵子提供によって子を産んでいた。また出産・子育てをしている141名のうち、実際に子どもに出自や血の繋がり、親のセクシュアリティなどの真実告知を行っているものは20%(28名)であり、まだ話していないものが約半数弱の65名であった。これらの調査結果をふまえ、今後どのような支援のあり方が必要かを議論したい。